202005gekkansuiei


今月発売された月刊水泳5月号に、公益財団日本水泳連盟副会長、上野広治より選手、コーチを始めとする水泳に携わる方々へのメッセージが掲載されました。

月刊水泳は登録クラブ及びチームに届きますが、緊急事態宣言が発令されているなか、選手にはこのメッセージが届きにくい状況でもあるため、こちらに掲載します。

今こそ、水泳人として何をどう行動するのか。
状況が刻一刻と変化するなか、全員がプールで泳げるようになるその日まで、今を見つめ直す時間にしてみませんか。

ーーーーー以下月刊水泳5月号よりーーーーー

『水泳人として』 公益財団日本水泳連盟副会長・上野広治

 5月4日、緊急事態宣言の延長が発表されました。未だ先が見えない状況のなか、水泳関係者の皆さまも非常に苦しい日々が続いていることかと思います。
 まさに、今は我慢しかない状況です。世界中が同じ状況のなかで、今の私たちに求められているのは、創意工夫なのではないでしょうか。
 日本中の企業が今を勝ち残るために、様々な創意工夫をし、道を見出しています。まさしく、選手として、アスリートとしてこの状況を勝ち残るために智恵を絞るときなのではないかと思うのです。
 振り返れば、先人たちも同じように創意工夫を重ね、結果を積み重ねてきました。古橋廣之進先生が遺された言葉「泳心一路」にもありますが、日本は戦争という辛い経験を経て、一面焼け野原で泳ぐ場所もないなかを創意工夫で乗り越えてきました。
 今、泳げないなかでも自分がアスリートとして何をすれば良いのか。何をすべきなのかをじっくりと考え、行動していくことが、今の私たちに求められているのかもしれません。
 そして、先に進むためにはモチベーションは必要不可欠です。ですが、現状は選手たちの目標となるべき大会がなくなってしまっています。もちろん私たちは、選手たちのモチベーションを支える目標となる場所を提供する方向で動いていきます。しかしながら、大会を中止せざるを得ない現状において、モチベーションを保つために、もう一度目的と目標の違いを考えてみませんか。
 元々、水泳を始めたきっかけというのは、小児ぜんそくを治すためだったり、体力作りだったりするのではないでしょうか。学校体育で言えば、柔道や剣道、弓道などを含め、スポーツにおいて競技力向上はひとつの目標に置きつつ、その目的は今後の人生の糧となるものを構築していくことです。
 そういう意味では、ここで一度原点に立ち返り、自分が水泳をやっている目的は何なのかを考え直すことは、アスリートとして大切な時間であり、必ず先につながっていくものだと思います。
 そして、その目的を達成するために、目標がある。目標はゴールではなく、あくまで目的を達成するための通過点です。ですから、目標となる大会が中止になり、モチベーションを保つことが難しくなった今こそ、自分にとって水泳をする目的は何なのかをもう一度見直すことは、新たなモチベーションを生み出せる原動力になるのではないでしょうか。
 この目的を達成するために、泳げないという現状を受け入れ、そのなかで自分は何をすれば良いのか智恵を絞るのです。
 戦後の激動の時代を勝ち抜いてきた先人たちは、まさにそうしてきました。泳ぐ場所などなかったところからスタートして、世界を驚かせてきた日本人としての大和魂を駆り立てて、今一度、この苦境を皆で乗り越える智恵を絞ろうではありませんか。
 選手は悔しい気持ちで一杯だと思います。私たちはその気持ちに寄り添いながら、皆さんが前を向いてもう一度歩き始められる道を作っていきたい。そのために尽力していきます。
 最後に、これらの言葉を皆さんに贈ります。古橋先生はこうおっしゃいました。『速く泳ぐだけなら魚に勝てない』。JOC は『人間力なくして競技力向上なし』のスローガンを掲げています。
 今こそ、人間力を磨いてください。